DCON2026への挑戦
この度、全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト「DCON2026」に、道路インフラの維持管理を支えるシステム「CityWalk Guardian」で挑戦しました。開発チーム名は「StrAIde」です。
DCONは、高専生が日頃培った「ものづくり」の技術と「ディープラーニング」を掛け合わせ、そこから生み出される事業性を「企業評価額」という指標で競う事業創出型のコンテストです。日本ディープラーニング協会・全国高等専門学校連合会・NHK・NHKエンタープライズによって主催されており、今年度で第7回を迎えました。今回は過去最多となる119作品がエントリーし、一次審査・二次審査を経て本選が行われる、規模・注目度ともに年々高まっているコンテストです。
私にとっては3度目のDCONで、今年は昨年までのポスター展示枠にあたる「特別展示」としての出場となりました。私たちが取り組んだのは、市民の日常的な移動そのものを、街の点検インフラへと変えるというテーマでした。

道路管理の現状という課題
プロジェクトの出発点となったのは、道路インフラの維持管理が抱える構造的な課題でした。
担い手の不足と高齢化
建設業では55歳以上が約4割を占める一方、29歳以下は1割以下にとどまっています。さらに2020年以降は、5年ごとに建設技術者が約1.5〜3.0%、建設技能労働者が約7〜8%減少していく見込みとされています。加えて過疎化も進み、令和6年時点で条件不利地域における当面存続見込みの集落は5年で12.5%減少、無人化が危惧される集落のうち47.1%ではインフラ管理が不十分または荒廃している状況が確認されています。
道路をはじめとするインフラは、人の手による点検を前提に成り立ってきました。その担い手が減り続けるなかで、いかに専門人材に頼らずに管理を続けられるかが問われています。
沼津市道路パトロールで聞いた声
課題を机上で捉えるのではなく、現場の実態を知るために、地元である沼津市の道路パトロールに同行し、お話を伺いました。
「沼が多いのが特徴の地域のため、地盤が弱く、道路管理が難しい」「亀甲から水が出ることも多く、損傷も激しい」といった、沼津市特有の地盤特性に根ざした声を聞くことができました。同時に、車から人の目で路面の状態を確認していること、業務が特定の担当者に依存する属人的なものになっていることなど、依然としてアナログな現場の実態も見えてきました。
これらの気づきから、土地のニーズに合わせた機能設計と記録の一元化を行い、専門人材に頼らずに回る仕組みが必要だという方針にたどり着きました。
CityWalk Guardian の仕組み
「CityWalk Guardian」は、車載デバイスで取得した路面の映像とGPS情報をもとに、路面の異常を自動で検出・記録するシステムです。
ハードウェア層ではカメラとGPSデバイス、そして推論を担うJetson Nanoを組み合わせています。取得した映像はバックエンドで動画処理とAI解析にかけられ、検出された損傷情報はデータベースに、生データはストレージに保存されます。フロントエンドはWebアプリとして構築し、検出された損傷箇所をGoogleマップ上に表示することで、どこにどんな異常があるのかを直感的に把握できるようにしました。
道路管理者向けには、路面異常の自動マッピング、路面状況の時系列での記録、道路沿いの草木の検出といった機能を用意しています。これらによって、これまで人の目に頼っていた道路パトロールの業務省力化を目指しました。
ディープラーニングによる損傷検出
システムの中核を担うのが、複数のディープラーニング技術を組み合わせた損傷検出のパイプラインです。
具体的には、SAM3によって損傷領域のマスクを自動生成し、Depth Anything V2で損傷箇所の深度を推定、RDD2022を用いて損傷の特徴量を分類しています。これらを損傷スコアリングに統合することで、実世界でのサイズや深刻度を見積もる設計としました。加えて、YOLOのカスタムモデルによるエッジ処理も今後の実装予定として組み込んでいます。
学習に用いたデータは、沼津市道路管理課のご協力のもとパトロール車に設置したGoProで撮影した動画、損傷タイプ別にアノテーションされた公開ベンチマークであるRDD2022、そしてシステム自身が自動検出した損傷データの再利用によって構成しました。現場の実データと公開データセットを組み合わせることで、地域特性を反映しつつ精度を高めることを狙っています。
ビジネスモデル
技術だけでなく、それを持続的に社会へ届ける仕組みも設計しました。
構想したのは、市民ユーザー・StrAIde・インフラ管理者の三者による Win-Win のエコシステムです。市民ユーザーはドライブレコーダ型のデバイスを車に設置するだけで道路管理に貢献でき、データ量に応じてポイントが付与されます。取得されたデータはインフラ管理者へ提供され、管理者は作業の効率化やパトロール頻度の削減による人件費削減、変化状況の記録といったかたちで活用します。
収益面では、道路状況管理者向けに1自治体あたり200万円、電力・通信会社向けに1企業あたり5000万円といったサービス使用料を想定しました。さらに、電線支障物の自動検知や、犯罪・事故調査を想定した防犯カメラ的機能、交通量状況の記録などへ機能を拡張することで、道路管理にとどまらず幅広い業界をターゲットに市場規模を広げる方針としています。
「日常の移動」を「街の更新力」へと変換する、持続的なエコシステムを目指しました。
競合との差別化
道路点検の分野では、ドライブレコーダーやスマートフォンで撮影した画像をAI解析するサービスがすでに複数存在します。私たちはこれらの既存サービスとの違いを、四つの観点から整理しました。
網羅性の面では、幹線道路が中心となりがちな既存サービスに対し、生活道路までをカバーすること。プライバシーの面では、クラウドでの一括管理ではなく、エッジ側で匿名化処理を行うこと。継続性の面では、専門の巡回を必要とせず、市民の日常の習慣として点検が続くこと。そして活用の面では、道路に特化するのではなく、電力・通信といった他業界へも展開できることです。
これらを踏まえ、「1つのデータから取得した情報を複数業界へ提供する」こと、そして「情報提供先ごとに機能を最適化する」ことを差別化の軸と位置づけました。
DCON2026を終えて
3度目のチャレンジとなった今回は、残念ながら本選出場には至りませんでした。今年度から導入された特別展示チーム向けの賞も受賞とはならず、正直なところ、とても悔しい気持ちが残る大会となりました。
一方で、この大会を通して救われた思いもたくさんありました。3年前に立ち上げたコンテスト同好会で、一丸となって切磋琢磨してきた後輩チームが本選に出場して企業賞を受賞し、特別展示で出場したチームも特別展示賞とオーディエンス賞のダブル受賞を果たしました。同好会発のスタートアップである株式会社HIBARIの展示などもあり、仲間たちの活躍を心から誇らしく思っています。ほかの沼津高専チームも多くの来場者から好評をいただき、同好会の設立当初から掲げてきた「沼津高専全体の平均点を上げる」という思いに、一定の成果が表れたことを実感できました。
会場では、高専関係のスタートアップの方々とも数多くお話しさせていただきました。前々回のDCONで右も左も分からなかった私に優しく接してくださった先輩起業家の皆さんとも久しぶりに再会でき、当時よりも近い目線でさまざまな議論を交わすなかで、この2年間で学び、経験してきたことがそれほど間違っていなかったのだと感じ、少し安心もしました。引き続き、先輩方から多くのことを学び取っていきたいと思います。

おわりに
今回のプロジェクトでは、課題を現場で捉えることの大切さをあらためて実感しました。人材不足や過疎化といった全国的なデータだけでなく、実際に沼津市の道路パトロールに同行して伺った声があったからこそ、地域に根ざした機能設計へと落とし込むことができたと感じています。ご協力いただいた沼津市道路管理課の皆様に、あらためて感謝申し上げます。
私にとってDCONは、技術をどのようにビジネスにするかを考えるだけでなく、「どう生きるのか」を考えるきっかけになっています。長期的に自分自身の生き方やキャリアを見つめ直すうえでも、今回の参加はとても良い経験となりました。支えてくださった事務局や関係者の皆様に、心から感謝しています。今後もこの記録を出発点として、引き続き精進してまいります。
DCON2024について
「全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト(DCON)」は、高等専門学校の学生が日頃培ったものづくりの技術とディープラーニングを活用した作品を制作し、生み出される事業性を企業評価額で競うコンテストです。
参考




